Sunday 10 November 2019

Art and Craft (2014)から

https://www.imdb.com/title/tt3654964/

実にいいドキュメンタリーだった。

Mark A. Landis  

この人は、絵画の模写をしている。そして出来上がったものを、無料で寄贈している。
直接実物を見ていないが、その模写は、本物のような迫力があり、見る人に迫ってくる。実に見事な模写だ。
実際、原画のサインまで模写している。

多くの人は、これを犯罪と呼ぶかもしれない。しかし彼は、こうした行為から利益を受けていない。彼の動機はもっと深いところにある。イエスキリストが、宣教活動を彼の食物と呼んだように、彼にとって、こうした行為は「食物」のようなものだとドキュメンタリーから判断できる。

彼の模写のすばらしさに魅せられて、多くの人がサポートをしている。ついに彼の個展が実現した。見に来た人々は彼の模写に深い感銘を受けたが、多くの人は、「素晴らしい、でも、あなた自身の作品を見たい。ぜひ、あなたの作品を描いてほしい。」と言っていた。

私は彼らには同調できなかった。

音楽の世界では、演奏家が他の人の作った曲を演奏する。
どうして、絵画の世界では、他の人の描いた絵画を模写できないのか。

演奏家は、模倣芸術家として位置づけられているのに、なぜ、絵画には模倣芸術家がいないのか。

演奏家は、楽譜を読み、曲を解釈し、演奏する。同じ楽譜を演奏しても、演奏家の解釈や力量で、出来上がる作品は異なる。なぜ、絵画の世界にはそれがないのだろうか。

今まで、こういう角度から物事を見たことがなかった。

ただ、最近周囲を見回して思うことだけれど、画家の技術のレベルが、古典画家のレベルとはかけ離れている。大学時代、基礎となるデッサンがまるでダメなのに、作品はそれなりに仕上げる学生が大勢いた。でも、そういう作品は、まるで表面的で、奥行きを感じないものがほとんどだった。まあ、短期間部屋に飾っておくにはいいかもしれない。

マーク・ランディスの技術は、古典的画家のレベルに達しているのだろうと思う。さらに、作品から滲み出している力を感じる。彼は、模写した作品に、自分のサインではなく、きちんと(?)原画の作者のサインをし、彼自身に栄誉を帰していない。

野心や、物欲によって汚されていない、有能な人物に出会うというのは、実に素晴らしいことだ。


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